イラスト 心臓とメス
病気と手術について

病気と手術について

両大血管右室起始症

病態と症状

正常では右心室には肺動脈が接続して、酸素飽和度が少ない血液を肺へと送り、左心室には大動脈が接続して、酸素飽和度が多い血液を心臓や全身へと送ります。
ところが、左心室と右心室の間の隔壁(心室中隔)に穴が開き、それによって右心室から大動脈・肺動脈の両方が起始する状態になったのが、「両大血管右室起始症」です。
A.大動脈・肺動脈のうち、どちらか片方が完全に、また他方の50%以上が右室から起始するもの、またはB.両者併せて150%以上が右室から起始するものとされています。
心室中隔欠損の位置によって4つに分類されています。①大動脈下型(subaortic)、②肺動脈下型(subpulmonic)、③両大血管下型(doubly-committed)、④遠隔型(non-committedまたはremote)となります。
また大血管関係によっても4つに分類されており、α.正常大血管関係、β.並列大血管関係(side-by-side)、γ.D型位置異常(D-malposition)、δ.L型位置異常(L-malposition)となります。
このため理論上は4×4=16通りあります。
病型に関わらず、肺動脈弁狭窄を合併すると肺血流量が減少し、チアノーゼ(こちらもご覧ください)を呈することになります。
以上のように様々なバリエーションのある疾患であり、全てを解説する訳にはいきませんので、ここでは臨床上よく見かける、α.正常大血管関係で①大動脈下型心室中隔欠損のもの、γ.D型位置異常で、②肺動脈下型心室中隔欠損のもので、かつ肺動脈弁狭窄を合併していないものを取り上げます。

正常大血管関係+大動脈下型心室中隔欠損症

病態と症状

心室中隔欠損が大動脈下に開口しており、左心室からの酸素飽和度の高い血液の多くは、心室中隔欠損を経て、大動脈に流入します。
図のように、肺動脈弁狭窄のない場合は、肺動脈にも、心室中隔欠損を介した酸素飽和度の高い血液が流入し、肺血流は増加します。すなわち症状としては、大きな心室中隔欠損症の血行動態に近く、肺うっ血、肺高血圧、心不全などの症状がでます。

肺動脈弁狭窄がある場合は、右心室に入った酸素飽和度の低い血液の一部が、心室中隔欠損を経て大動脈に流れるため、チアノーゼが生じます。肺動脈弁狭窄が強く、チアノーゼが強い場合は、肺血流を増やす目的に、動脈管を開く必要があれば、プロスタグランディン製剤(リプルやパルクス、プラスタグランディン)の点滴を開始する必要があります。

手術治療

全例が手術治療の適応です。
人工心肺を使用し、心停止を行ってから心内修復手術を行います。
右心房を切開して、三尖弁や大動脈弁、刺激伝導系と呼ばれる心臓の神経などに気をつけながら、①心室内通路作成といって、左心室からの心室中隔欠損からの血液が大動脈弁に向かうように、人工布を用いて通路を作成します。
可能な場合は、上記のように1回で心内修復術を行いますが、肺血流増加に伴う心不全が強く、かつ体格が小さい場合は、まず姑息術(肺動脈絞扼術:こちらをご覧ください)を行い、体格が大きくなってから心内修復術(①の心室内通路作成+絞扼した肺動脈の拡大形成)を行います。
(以上の説明は、心室中隔欠損症と共通する部分が非常に多いです)

肺動脈弁狭窄が有る場合は、心内修復術の際に、①の心室内通路作成に加えて、②右室流出路拡大も必要となります。最も術式に影響するのは、本人の肺動脈弁の大きさです。
肺動脈弁にある程度のサイズがあれば、切り開くことで、可能な限り自己肺動脈弁を温存します。それ以外に肺動脈を拡大し、また(ある場合は)右室内の異常筋束を切除します。
肺動脈弁のサイズが小さすぎる場合は、自己弁温存を諦めざるを得ません。手作り1弁付きパッチを用いて、肺動脈~右室流出路を拡大し、再建を行います。この場合は、患者さんの成長に伴って、肺動脈弁逆流が生じてくるため、再手術が必要になることが多いです。
こちらも同じく、可能な場合は、上記のように1回で心内修復術を行います。が、体格が小さく、肺動脈の発育が悪かったり、チアノーゼが強くプロスタグランディン製剤が中止できない場合は、心内修復手術の前に、姑息手術が必要になります。
その場合は、肺血流増加を目的として、人工血管を用いて、体肺血流シャント手術(ブラロック-タウシッヒ シャント)を行います。
こちらの説明も、「肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損症」の「体肺血流シャント手術」の項(こちらをご覧ください)に譲ります。
(以上の説明は、ファロー四徴症と共通する部分が非常に多いです)

D型位置異常+肺動脈下型心室中隔欠損症
(false Taussig-Bing奇形)

病態と症状

心室中隔欠損が肺動脈下に開口しているため、左心室からの酸素飽和度の高い血液の多くが、心室中隔欠損を経て、肺動脈に流入します。
一方、酸素飽和度の低い静脈血は主に大動脈に流れるため、通常、チアノーゼが顕著となります。
生後、肺動脈圧の低下と共に、肺血流が増加し、肺うっ血が顕著となります。

手術治療

全例が手術治療の適応です。
人工心肺を使用して、心停止を行ってから、心内修復術を行います。
新生児期に①ジャテーン手術(動脈スイッチ手術)と②心室中隔欠損のパッチ閉鎖を行うことで、左心室から大動脈へ、右心室から肺動脈への通路を作ることになります。
ジャテーン手術に関しては、こちらを、心室中隔欠損パッチ閉鎖に関しては、こちらをご覧ください。