イラスト 心臓とメス
病気と手術について

病気と手術について

完全大血管転位症

病態と症状

正常では右心室には肺動脈が接続して、酸素飽和度が少ない血液を肺へと送り、左心室には大動脈が接続して、酸素飽和度が多い血液を心臓や全身へと送ります。
ところが、右心室に大動脈が、左心室に肺動脈が接続してしまったのが「完全大血管転位症」です。完全大血管転位症は、他の心奇形(心室中隔欠損症、肺動脈弁狭窄症)が合併するか否かによって、3つに分類されています。

  心室中隔欠損症 肺動脈弁狭窄症
1型 なし なし
2型 あり なし
3型 なし あり

1型では、心室中隔欠損の合併がないため、酸素飽和度の高い血液が、左房→左室→肺動脈(肺へ)と流れ、酸素飽和度の低い血液が、右房→右室→大動脈(全身へ)へと流れるため、そのままだと体へ十分な酸素を送ることが出来ません。
このため、心房間交通(卵円孔開存症や心房中隔欠損症)が必須で、ここで酸素飽和度の高い血液と低い血液を混ぜる必要があります。
心房間交通が小さければ、この血液の混合が不十分なので、血液の混合度合いを増やすために、カテーテルで心房中隔を切り開く処置(心房中隔バルーン裂開術)が生後すぐに必要となります。

2型では、1型とは異なり左心室と右心室の間で血液の混合がなされるため、心房間交通が小さくても、心房中隔バルーン裂開術は不要なことが多いです。
ただし2型では、肺血流が増加して心不全や肺うっ血を来すことも多く、また手術においては心室中隔欠損を閉鎖する必要があります。

3型では、肺動脈弁狭窄を合併しているため、肺血流は減少しており、肺うっ血を来すことは少ないですが、肺血流減少が強いと、その分チアノーゼが強くなります。
チアノーゼが強く、肺血流を増やす目的に、動脈管を開く必要があれば、プロスタグランディン製剤(リプルやパルクス、プラスタグランディン)の点滴を開始する必要があります。

手術治療

全例が手術治療の適応です。
人工心肺を使用して、心停止を行ってから、心内修復術を行います。

1型、2型のように、肺動脈弁に異常がなければ、新生児期にジャテーン手術(動脈スイッチ手術)を行います。
大動脈と肺動脈を入れ替え(スイッチ)、心室と大血管の関係を正常とする手術です。
この術後は、右心室→大動脈弁(大動脈基部)→肺動脈、また左心室→肺動脈弁(肺動脈基部)→大動脈と血液が流れます。肺動脈弁と大動脈弁は形態が非常に似ており、肺動脈弁に異常がなければ、このような形で弁を代用(転用)することが可能ですが、肺動脈弁狭窄を有する3型にはジャテーン手術は行いません。
またジャテーン手術では、大血管の入れ替えだけでなく、心臓に血液を送る「左右の冠動脈」も移植して、肺動脈基部に植え込む必要があります。冠動脈は心臓に血液を送る非常に大切な血管なので、移植によって折れ曲がったり、狭窄したりしないようにしなければいけません。(冠動脈血流不足が起これば、心筋虚血や心筋梗塞が起こり、心機能低下を来します)
冠動脈の走行パターン(左右に分かれていない「単冠動脈」や、大動脈の壁の中を走行している「壁内走行」)によっては、冠動脈移植の難易度が上がり、色々な手術の工夫が必要になります。
図では、完全大血管転位症1型を示していますが、動脈スイッチ手術と共に、心房中隔欠損を閉鎖し、また動脈管を糸で結んで(結紮)、切り離して(離断)してしまいます。2型のように心室中隔欠損を合併している場合は、そちらのパッチ閉鎖も行います。

また肺動脈弁や冠動脈形態に加えて、このジャテーン手術を行うために重要なのは、左心室の状態です。生後すぐから肺動脈圧は下がり始めるため、それとともに完全大血管転位症では、左心室圧も下がっていきます。その状態が長期間放置されると、左心室の心筋重量が減少してやせ細ってしまい、そのままでは、ジャテーン手術を行って、左心室に全身の高い血圧を担わせることは出来なくなります。
これを防ぐために新生児期早期にジャテーン手術を行うことが一般的ですが、一旦心筋重量が減少した左心室に対しては、姑息術を行う必要があります。
その姑息術とは、①肺動脈絞扼手術(肺動脈の周りに細いテープを巻いて、締め上げることで、肺動脈の内腔を狭くします。心室中隔欠損症や完全型房室中隔欠損症に対して行う場合は、「肺血流を制限すること」を目的に締め上げますが、この場合は「左心室の出口を狭くすることで、左心室内圧を上げ、心筋重量を増す」ことを目的とします)です。別名「左室トレーニング」とも言われます。
ただし左心室内圧が十分上昇させようとすると、肺動脈をかなり締めることになることが多く、そのままでは肺血流が不足して、チアノーゼが高度になってしまうため、それを防ぐために②体肺血流シャント手術を行って、全身に流れるべき血流の一部を肺へと流してバランスを取ることになります。
この姑息術の後で、左心室が全身に血液を送ることが出来るようになったと判断されたら、ジャテーン手術を行うこととなります。

*1型と2型に対する心内修復術としては、動脈スイッチ手術(ジャテーン手術)の他に、心房スイッチ手術(セニング手術、マスタード手術)がありますが、遠隔期の予後が比較されて、動脈スイッチ手術に軍配が上がっているため、心房スイッチ手術は、動脈スイッチ手術が出来ない症例にのみ行われています。

3型では、上記のように肺血流の減少のため、プロスタグランディン製剤が必要な状態であれば、姑息手術として、体肺血流シャントが行われます。
体肺血流シャント手術に関しては、こちらをご覧ください。
肺血流が多すぎもせず、少なすぎもせず、適切な量であれば、プロスタグランディン製剤は不要であり、しばらくの間は外来で体格が大きくなるのを待ちます。
体格が大きくなってから、心内修復手術を行います。

心内修復手術としては、ラステリ型手術(こちらをご覧ください)やREV(Reparation a l'Etage Ventriculaire)手術、大動脈基部移植術(Nikaidoh法など)などがなされますが、肺動脈弁のサイズや冠動脈形態、心臓大血管関係などにより、様々な手術法があり、case by caseです。